note株式会社(5243)が2025年10月7日の取引時間終了後に発表した2025年11月期第3四半期連結決算は、市場の期待を大きく上回る内容となり、即座に時間外取引(PTS)での株価上昇というかたちで強い好感をもって迎えられました。この決算は、単なる増収増益ではなく、同社が創業以来目指してきた「収益化フェーズ」への確実な移行を証明するものであり、今後の成長戦略の実行可能性を大きく高めるものです。
本稿では、この決算のハイライト、PTSでの株価上昇につながった構造的要因、そして中長期的な成長に向けた同社の戦略について考察します。
第1章 決算結果の「質的変化」と市場の評価
noteの2025年11月期第3四半期(2024年12月1日〜2025年8月31日)の連結累計期間の業績は、すべての利益項目で前年同期比3桁増を達成しました。特に注目すべきは、第3四半期単独(2025年6月1日〜8月31日)の実績です。
驚異的な利益のジャンプアップと上方修正
第3四半期単独の売上高は1,075百万円となり、前年同期比で27.2%の増加を達成しました。売上成長率は第2四半期からさらに加速しています。しかし、投資家が最も強く反応したのは、利益の伸びです。
- 四半期単独の営業利益は103百万円となり、前年同期比で366.9%の増加を記録しました。これは、note株式会社が四半期ベースで初めて利益が1億円を突破したことを意味します。
- 調整後EBITDAも115百万円となり、四半期で初の1億円超えとなりました。
- 営業利益は6四半期連続、調整後EBITDAは7四半期連続の黒字を達成しており、利益の単発的な計上ではなく、収益性の定着を示しています。
この好調な進捗を受け、同社は2025年11月期の通期連結業績予想を大幅に上方修正しました。特に利益面での修正幅が大きく、営業利益は期初予想の60百万円から200百万円へ、233.3%増に引き上げられました。
PTSでの株価上昇を招いた決定的な要因
2025年10月7日の取引終了後にこの決算が発表された直後、PTS(私設取引システム)で株価は上昇しました。その背景には、主に以下の三つの要因が複合的に作用しています。
- 利益の質的な改善の証明:四半期営業利益が初めて1億円を突破したという事実は、成長のための投資段階から、コストを制御しつつ利益を創出できる体制へ移行したことの強い証拠となりました。
- 純利益のサプライズ:通期純利益予想が期初予想の110百万円から330百万円へ200.0%増と、営業利益や経常利益の伸び以上に大きく修正されました。これは、足元の堅調な業績や今後の見通しを踏まえ、繰延税金資産の回収可能性を検討した結果、第3四半期累計期間で法人税等調整額(益)74百万円を計上したことが主な理由です。会計上の措置であるとはいえ、純利益が大きく押し上げられたことは、市場にポジティブなインパクトを与えました。
- 費用効率の飛躍的な向上:売上高の成長に加え、後述する徹底した費用抑制策が奏功し、売上総利益の増加をそのまま利益の増加に結びつけられた点が、投資家に高く評価されました。
第2章 利益構造を劇的に変えた二つの柱
noteの決算の好調さは、「売上成長の加速」と「費用削減と効率化」という二つの柱によって支えられています。
成長の加速:生成AIとストック型ビジネスモデル
主力のメディアプラットフォーム事業は、CtoCプラットフォームの「note」と法人向けSaaSの「note pro」が牽引しています。
- note事業の強靭化:第3四半期単独の流通総額(GMV)は5,537百万円となり、前年同期比で27.4%増と成長が加速しています。累計会員登録者数は1,052万人、公開コンテンツ数は6,407万件、累計ユニーククリエイター数は188万人と、いずれも20%以上の高い伸びを示しています。この成長は、購読者数の継続的な増加と、一人当たりの平均月間購入額(ARPPU)の上昇によって牽引されています。
- 生成AIの追い風:このnoteの成長加速の背景には、生成AIの普及が挙げられています。生成AIは創作のハードルを下げ、効率とクオリティ向上に貢献することでクリエイターとコンテンツの増加ペースを拡大させています。また、AI検索からの流入も確保できているため、読者とコンテンツのマッチング精度が向上し、購読や購買の増加につながっています。同社はこのポジティブなトレンドが今後も継続すると見込んでいます。
- note proの拡大:法人向け情報発信メディアSaaSであるnote proのARR(年間経常収益)は648百万円(前年同期比23.9%増)まで拡大しました。noteユーザーの拡大に伴い、企業がnoteを活用して発信するメリットが増加していることに加え、「LINE友だち追加」機能などの法人ニーズの高い機能拡充や、積極的な営業施策が奏功し、契約獲得が加速しています。有料契約数は933件(2Q末比68件増)に達し、2025年10月には導入社数が1,000社を突破しています。
費用効率の飛躍的向上とコスト規律
売上成長と同時に、販管費(販売費及び一般管理費)の抑制が徹底されたことが、利益急増の最大の要因です。
- AIによる業務効率化:事業運営や開発においてAIを積極的に活用し、業務生産性を向上させた結果、業務委託費の減少が実現しました。
- コストマネジメントの強化:プラットフォームの拡大に伴い増加傾向にあった通信費についても、コストマネジメントを強化したことで削減効果が得られました。
- 採用関連費用の抑制:上期に採用が大きく進んだため、下期はより厳選した採用方針に移行し、採用関連費用が減少しました。
同社は、重視する財務指標として売上総利益の最大化を目指しており、プラットフォームのネットワーク効果を働かせることで、広告宣伝費等のコストを抑制しつつ事業KPIを成長させる戦略をとっています。これらのコスト規律の維持が、今回の飛躍的な収益性改善に直結しました。
第3章 今後の見通しと非連続な成長戦略
今回の好調な決算を経て、noteは中長期的に売上成長率20%から30%の実現を目指す「売上拡大期」を確かなものとしています。今後の成長は、既存事業のオーガニック成長に加え、エコシステムの拡張とAI関連の新たな収益チャネルの確立にかかっています。
AI事業者へのデータ提供という新たな収益機会
最も注目すべきは、将来の非連続な成長につながる可能性を秘めたAI戦略です。
- 同社は、note上のコンテンツ(有料コンテンツやメンバーシップを含む)をAI事業者に提供し、その対価をクリエイターに還元する取り組みを推進しています。
- 2025年8月には、データ提供を希望しないクリエイターの作品を除き、コンテンツを学習用データとしてAI事業者に提供できる体制づくりが完了しました。
- 現在、国内外の複数のAI事業者と、コンテンツを提供し対価を得るための協議が進められています。
- この取り組みは、クリエイターの収益機会を多様化させるとともに、当社にとってもAI事業者へのデータ提供を通じた新たな収益獲得につながります。
- このデータ提供による収益化は、現時点では売上計上時期が未定であるため、上方修正された通期業績予想にはまだ織り込まれていません。交渉が進展し、収益計上が始まれば、今後の業績に大きな上振れ要因となる可能性があります。
エコシステムの拡張と財務基盤の強化
noteは、インターネット上の「街」として、あらゆる活動の本拠地となることを目指し、エコシステムの拡張を推進しています。
- IP創出への挑戦:子会社Tales & Co.が手掛けるIP・コンテンツクリエーション事業では、物語投稿サイト「TALES」の運営を通じてクリエイターを発掘し、多様なメディアとマッチングさせることでIP(知的財産)の創出を目指しています。既に自社IP作品の書籍化や、外部企業からのゲームシナリオ制作受託などの実績が増加しており、今後の成長の柱として期待されます。
- 戦略的提携と投資:noteはGoogleとの資本業務提携に加え、ココナラ社への株式取得、AI編集アシスタントを提供するStoryHub社への出資など、外部リソースを活用した非連続な成長を追求しています。今後はnoteのエコシステム拡大につながる事業提携やM&Aも積極的に検討していく方針です。
- 財務状態の健全化:2025年1月に実施されたGoogleからの第三者割当増資の払込みや、好調な業績による利益剰余金の増加により、純資産合計は大幅に増加し、自己資本比率は45.6%と健全な水準を維持しています。また、今後のさらなる事業拡大に向けた7億円の借入も実施しており、財務基盤は強化されています。
- 株主還元の新設:中長期的な株式保有を促し、株主とのエンゲージメントを強化するため、2025年11月末時点の株主を対象とした株主優待制度の新設を発表しました。
まとめ
noteの2025年11月期第3四半期決算は、売上高の成長加速、AI活用による業務効率化、そしてこれらがもたらした営業利益の四半期1億円突破という劇的な収益構造の転換を証明しました。今回のPTSでの株価上昇は、この利益構造の定着と通期予想の大幅上方修正という明確なサプライズに対する市場の評価であると結論づけられます。
今後は、生成AIを背景とした既存事業のオーガニックな成長に加え、AI事業者へのデータ提供という未発表の巨大な収益機会の交渉の進展が、株価のさらなる評価に直結する重要な要素となるでしょう。noteは、コンテンツ市場9.4兆円という巨大な市場において、エコシステムの拡張を通じて中長期的な成長軌道に乗ったと言えます。
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