記録的な業績達成のハイライト
2025年10月9日に発表された株式会社ファーストリテイリング(9983)の2025年8月期(2024年9月1日~2025年8月31日)の連結業績は、4期連続で過去最高の業績を達成するという、目覚ましい結果となりました。
連結決算では、売上収益が3兆4,005億円(前期比9.6%増)、事業利益は5,511億円(同13.6%増)、親会社の所有者に帰属する当期利益は4,330億円(同16.4%増)となりました。この業績は、質の高い新規出店が成功し、同社が提唱する「LifeWear(究極の普段着)」への支持がグローバルで高まったことによるものです。特に、ユニクロの存在感が各地でメディアに取り上げられるなど、世界的に高まっています。
2025年8月期 連結業績の綿密な分析
全体的な収益性と財務構造の改善
2025年8月期は、すべての利益項目で大幅な増益を達成しました。特に、事業利益の売上収益比率(事業利益率)は16.2%となり、前期の15.6%から0.6ポイント改善しました。
販管費率の改善
販売費及び一般管理費(販管費)の売上収益比率は37.6%となり、前期比で0.7ポイント改善しました。これは、主力の国内ユニクロ事業で販売が好調だった結果、賃借料比率や人件費比率が低下したことが寄与しています。インフレ時代における経費構造の改革、特にローコスト経営の推進が着実に進んでいることが示唆されます。
為替差益が押し上げた税引前利益
税引前利益は6,505億円(前期比16.8%増)となりました。この大幅な伸びには、金融収益・費用が863億円のプラスとなったことが大きく影響しています。内訳としては、利息がネットで524億円のプラスに加え、外貨建資産の換算などによる為替差益が338億円発生したことによります。
積極的な成長投資の実行
当連結会計年度の設備投資は1,719億円に上り、前期比で597億円増加しました。特に海外ユニクロ事業に1,200億円を投じており、新規出店や自動化倉庫への投資など、グローバルでの事業成長のために積極的な投資を実行しています。
キャッシュ・フローを見ると、営業活動によるキャッシュ・フローは5,806億円の獲得となりました。一方、投資活動によるキャッシュ・フローは5,789億円の使用となり、前期(822億円の使用)から大幅に使用額が増加しました。この増加は、有形固定資産の取得による支出(1,355億円)のほか、定期預金の純増額2,096億円、投資有価証券の取得、売却及び償還による純支払額1,850億円といった、財務面での戦略的な資金運用と成長投資が複合的に作用した結果です。
株主還元:年間配当金は500円へ
好調な業績を背景に、2025年8月期の1株当たり期末配当金予想が260.00円に修正されました。これにより、上期の240円と合わせ、年間配当金は500円となり、前期の400円から100円の増配となりました。
セグメント別業績:成長ドライバーと課題の明確化
国内ユニクロ事業:売上収益1兆円の壁を突破
国内ユニクロ事業は、売上収益1兆260億円(前期比10.1%増)、事業利益1,813億円(同17.5%増)と、大幅な増収増益を達成しました。売上収益が初めて1兆円を突破し、過去最高の業績です。
好調の背景
通期の既存店売上高は8.1%増と好調を維持しました。気温に対応して戦略的に商品を準備し、マーケティングと連動させたことで実需を的確に捉えられました。さらに、スウェットやジーンズなどのコア商品にトレンドのシルエットやデザインを取り入れた結果、新しい需要の喚起にも成功しました。
増益幅が売上増を上回ったのは、好調な販売による賃借料比率や人件費比率の低下により、売上高販管費比率が1.2ポイント改善したためです。
海外ユニクロ事業:グローバル成長を強力に牽引
海外ユニクロ事業は、売上収益1兆9,102億円(前期比11.6%増)、事業利益3,053億円(同10.6%増)と、大幅な増収増益で過去最高の業績を達成し、グループ成長の柱として機能しました。
北米・欧州の成功モデル
特に北米(売上収益2,711億円、24.5%増)と欧州(売上収益3,695億円、33.6%増)の成長が顕著です。両地域では、新規出店した店舗が大成功を収め、店舗がメディアの役割を果たして認知度が向上し、Eコマース販売拡大の好循環を生み出しました。米国では、追加関税の影響が出始めた第4四半期も増収増益を維持し、適切な価格設定や値引率改善によりコスト増を吸収し、事業利益率を改善させました。
アジア圏の状況
韓国と東南アジア・インド・豪州地区も大幅な増収増益でした。韓国は気温に対応した商売が奏功し、東南アジア・インド・豪州地区はコア商品販売が好調でした。
一方で、グレーターチャイナ(中国大陸、香港、台湾)は、売上収益6,502億円(4.0%減)、事業利益899億円(12.5%減)と、減収、大幅な減益となりました。中国大陸では消費意欲の低下などの影響を受けましたが、第4四半期には売上総利益率と売上高販管費比率が改善し、事業利益は約11%増益に転じています。
ジーユー事業:増収の一方で利益圧迫
ジーユー事業は売上収益3,307億円(前期比3.6%増)と増収でしたが、事業利益は283億円(同12.6%減)と大幅な減益となりました。
減益の背景には、報酬引き上げに伴う人件費の増加や、米国出店に伴う費用増による販管費比率の上昇があります。また、マストレンドを捉えたヒット商品が不足し、売れ筋商品の欠品も発生したため、既存店売上高が前年並みに留まり、売上を最大化できませんでした。
グローバルブランド事業:構造改革と明暗
グローバルブランド事業は、売上収益1,315億円(前期比5.3%減)と減収でしたが、事業利益は26億円の黒字(前期1億円の黒字)と増益となりました。
ただし、営業利益は9億円の赤字でした。これは、コントワー・デ・コトニエ事業で事業構造改革に伴う減損損失など39億円を計上したことによります。
セグメント内では明暗が分かれました。
- セオリー事業:主力商品の販売に苦戦し、中国大陸の消費意欲低下の影響も受け、減収減益でした。
- プラステ事業:ワイドパンツやシアーセーターなどの販売が好調で、大幅な増収増益となりました。
- コントワー・デ・コトニエ事業:減収ながらも、売上総利益率と売上高販管費比率が改善し、事業利益の赤字幅は半減しました。
2026年8月期の見通しと今後の成長戦略
2026年8月期 業績予想:さらなる記録更新へ
ファーストリテイリングは、2026年8月期も過去最高の業績を見込んでいます。売上収益3兆7,500億円(前期比10.3%増)、事業利益6,100億円(同10.7%増)を予想しています。親会社の所有者に帰属する当期利益は4,350億円(同0.5%増)と予想されています。
増配予想
年間配当金は、中間・期末ともに260円とし、合計で520円(前期比20円増)を予想しています。
グローバル戦略の加速と収益の多角化
同社グループは、世界中の顧客から信頼され、生活に不可欠なグローバルNo.1ブランドになることを目指し、以下の戦略に注力します。
今後の成長の焦点は、引き続き海外ユニクロ事業です。
- 海外ユニクロ事業は、大幅な増収増益の予想です。北米ではブランディング強化や値引率改善により追加関税影響を吸収し、事業利益率約15%の継続を目標とします。
- グレーターチャイナも増収増益への回復を見込んでいます。
- ジーユー事業は、増収増益に転じる見込みです。
- 国内ユニクロ事業は、円安による調達コスト増や人件費・物流費の上昇といったコスト増加局面に対応し、商品づくりやマーケティング強化、生産性改善、ローコスト経営を徹底することで、15%以上の事業利益率を継続的に確保する見込みです。
サステナビリティを基軸とした事業モデル
ファーストリテイリングは、事業の発展がサステナビリティに寄与するビジネスモデルを追求しています。LifeWearのコンセプトに基づき、環境配慮・人権保護・社会貢献を重視した服づくりを進めています。
主な取り組み
- RE.UNIQLOの推進:「RE.UNIQLO STUDIO」は2025年8月末時点で22の国・地域、63店舗に拡大し、服のリペア・リメイクサービスを提供しています。
- 環境負荷の低減:2025年春夏商品において、リサイクル素材など温室効果ガス排出量の少ない素材の使用率は全使用素材に対して17%に達しました。
- サプライチェーンの透明性:取引先工場への「生産パートナー コードオブコンダクト(COC)」遵守要請や労働環境のモニタリングを強化しています。
- 高い環境評価:同社は、国際的な非営利団体CDPにより、気候変動領域で3年連続最高評価の「Aリスト」企業に認定されています。
まとめ:盤石な成長基盤と残された課題
ファーストリテイリングの2025年8月期決算は、グローバルでの「LifeWear」に対する支持拡大を背景に、極めて好調でした。特に北米・欧州という成長著しい市場での店舗とEコマースの好循環モデルを確立したことは、今後の成長の盤石な基盤となります。
2026年8月期に向けては、海外ユニクロ事業の大幅な拡大継続が成長の牽引役となる見込みです。一方、ジーユー事業については、コスト増要因を吸収しつつ、マストレンドを捉えたヒット商品を創出し、利益成長を再加速できるかが重要となります。また、グレーターチャイナ市場の早期回復も、グループ全体の増益率に大きく寄与する要素です。
同社は、経営人材の育成、グローバルでの収益柱の多様化、インフレ時代への対応としての経費構造改革など、多岐にわたる重点領域に注力しており、「グローバルNo.1ブランド」を目指す積極的な姿勢が明確に示されています。成長に向けた大規模な先行投資(設備投資1,719億円)も実行されており、今後の持続的な成長に向けた準備は万全であると言えるでしょう。
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