2025年10月8日、データセクション(3905)の株価は大きく下落しました。 終値は1,640円で、前日比-13.64%という下げ幅を記録しました。この急落の背景には、複数の個別要因、特に海外の調査機関が公表したセンセーショナルなリポートが存在します。本稿では、株価下落の理由、調査リポートの具体的内容と信ぴょう性、そして今後のデータセクションの事業展開と株価動向の鍵となる要素について分析します。
2025年10月8日の株価急落の背景
2025年10月8日の株価急落は、二つの主要な個別材料が市場心理を冷やし、売りを加速させました。
需給悪化を引き起こした大口株主の売却
株価急落の前日、大量保有報告書を通じて、保有比率の高い機関投資家が保有する全株式を売却したことが明らかになりました。これにより、市場では潜在的な売り圧力や需給悪化への懸念が強まり、短期的な株価の自律反発を抑え込む要因となりました。
海外ショートセラーの調査リポート公表と「空売り宣言」
同日、海外のショートセラーであるウルフパック・リサーチがデータセクションに関する調査リポートを公表し、同時にショートポジション(空売り)を保有していることを表明しました。リポート内で指摘された、主要顧客や輸出規制に関する疑義が市場心理を冷やし、後場にかけての下げを広げる主因となりました。市場全体が強弱感が交錯する地合いであったことも、ネガティブ材料が出た銘柄の売りを助長しました。
急落の核心:ウルフパック・リサーチの調査リポート内容
ウルフパック・リサーチの調査リポートは、データセクションが戦略的コア事業として推進するAIデータセンター事業の根幹に関わる、極めて重大な疑惑を提起しています。
「謎の顧客」はテンセントか?輸出規制違反の疑惑
リポートの最も中心的な主張は、データセクションが日本国内で計画している、輸出規制対象のNVIDIA B200 GPUを用いたスーパークラスター構想の背後に、中国のテンセントが存在するという点です。データセクションは、2億7,200万ドルを投じてNVIDIA B200 GPU(5,000個)を搭載したGPUサーバー(625台)一式を取得し、大阪府内に「世界最大規模のクラウドサービスプロバイダー」の要請に基づき、アジア最大級のAIスーパークラスターを構築する計画を進めています。この**「謎の顧客」がテンセントである**と、ウルフパックは強く信じていると述べています。
テンセントは中国軍との関係を理由に米国によって制裁・ブラックリスト指定されており、中国資本の企業への最先端GPUの提供は米国の輸出管理規制により厳しく制限されています。これが事実であれば、国際的な大スキャンダルに発展しかねない、日本の国家安全保障上の利益にも反する行為であると指摘されています。
資金調達における中国資本との関連性の指摘
リポートは、データセクションの資金調達手法にも疑念を呈しています。複数の情報筋によると、日本の銀行がこのスキームの違法性を察知し融資を拒否したため、同社CEOは中国と関係の深いシンガポール企業に資金提供を求めざるを得なくなったとしています。
実際、データセクションは、筆頭株主であるシンガポールの投資会社、First Plus Financial Holdings Pte. Ltd.との間で極度方式基本契約を締結し、資金の借入(プロジェクト資金または運転資金)を行っているほか、同社を割当予定先として最大780億円を上限とする新株予約権の発行登録を行っています。
さらに、CEOが当初、この「謎の顧客」の正体を社内のスタッフにも隠していたとの元社員の証言に基づき、中国資本との関係を隠すためにNowNaw Japan(NNJ)という会社を利用したのではないかという疑惑も提起されています。NNJは中国、特にテンセントと強く結びついているとされています。
日本および米国当局への通報
ウルフパック・リサーチは、この疑惑が極めて深刻であると判断したため、既に日本および米国当局に通報済みであることを明言しており、迅速な対応が取られることを期待するとしています。
調査リポートの信ぴょう性とファクトの現在地
株価を急落させたショートリポートですが、その内容の評価には慎重な判断が必要です。
リポートの評価:バイアスと匿名情報への依存
ウルフパック・リサーチは、空売りポジションを保有している立場であり、そのリポートには本質的にバイアスが内在しています。リポート全体には、センセーショナルな表現が目立ち、推測や匿名情報に依拠する部分が多いと評価されています。現時点では、リポートが指摘する内容について、公的な決定的な証拠が提示されているわけではないため、疑義提起の段階と評価するのが妥当でしょう。
会社開示情報が示す経営実態
一方、データセクションが公式に開示している情報からは、以下の事実が確認できます。
- 業績の状況: 2026年3月期第1四半期(2025年4月1日~6月30日)の連結業績は、売上高が前年同期比23.9%増の668百万円と増収基調にあるものの、新規事業であるAIデータセンター事業向け先行投資費用により、営業損失は342百万円(前年同期は91百万円の損失)と損失が拡大しています。
- 大型計画の進捗: NVIDIA B200 GPUの大型調達に成功し、大阪でのAIスーパークラスター構築計画、および世界最大規模のクラウドサービスプロバイダーからの大口サービス利用契約(3年間で総額約612億円)の締結が進捗していることは開示されています。
- 資金調達: 継続的な多額の損失計上により、「継続企業の前提に重要な疑義を生じさせる事象」が存在すると開示しつつも、2025年2月に発行した第20回新株予約権の全量行使により4,673百万円を調達するなど、当面の資金確保に成功しており、2026年6月30日までは重要な不確実性は認められないとしています。
- 透明性の不足: 会社開示側では、大型案件の顧客や、輸出規制に関連する手続きの個別詳細については守秘義務等により非開示となっている部分が多く、この透明性の不足が、疑惑を呼び込みやすい構造となっていることは否めません。
データセクションの今後の焦点と株価見通し
現在の株価動向は、ファンダメンタルズではなく、主にネガティブな「ヘッドライン」に左右される状況にあります。今後の展開は、会社側の対応と事業進捗によって大きく左右されます。
短期の鍵:会社による透明性の確保
短期的に株価が自律反発する鍵は、会社による迅速な説明と事実関係の開示にかかっています。ウルフパック・リサーチのリポートに対して、会社側が具体的な反証を行い、以下の点について市場の疑義を払拭できるかが焦点です。
- 主要顧客の属性や契約内容に関する透明性の補足説明。
- 輸出規制や輸出管理に関する法的な適合性についての明確な説明。
もし会社側が沈黙したり、曖昧な説明に終始したりすれば、市場の不信感は解消されず、株価の戻りは鈍いものとなるでしょう。
中期の見通し:AIデータセンター事業の収益化
中期的な株価の再評価は、大型案件の成約と、AIデータセンター事業の立ち上がり、そしてそれが収益改善につながるかにかかっています。
データセクションは、2026年3月期の連結業績予想として、売上高16,419百万円(前期比5.6倍)、営業利益3,173百万円(黒字転換)という大幅な成長を見込んでいます。これは、AIデータセンター事業の大型案件が収益に貢献することを前提としています。
計画通りにGPUの確保やパートナー連携(GIGA Computing社、CUDO Ventures社との提携など)が進み、受注残と稼働率が積み上がり、先行投資を上回る売上の加速と損益改善が実現すれば、市場は同社の高成長ストーリーを再評価する可能性があります。
留意すべき主要リスク
今後の投資家向けチェックリストとして、以下の主要リスクに留意が必要です。
- 規制・輸出管理リスク: 調査リポートの主張の一部が事実として確認された場合、規制当局による介入や、大型プロジェクトの頓挫につながる可能性があります。
- 資金調達・希薄化リスク: AIデータセンター事業は多額の資金を必要とします。最大780億円の新株予約権の発行登録がありますが、これが実施された場合、株式の希薄化が進行することは避けられません。調達資金の使途と、それが生み出す収益が希薄化を上回るかが重要です。
- 大型顧客依存の懸念: 開示されている大口案件(第1号案件)は、3年契約で総額約600億円超に上り、将来の売上を大きく左右します。この単一または少数の大型顧客への依存度が高まることで、プロジェクトの遅延や契約解消リスクが経営に与える影響は甚大です。
現時点では、データセクションは成長に向けた大胆な戦略的投資を実行していますが、そのビジネスモデルの特殊性(NVIDIA製GPUの確保)、国際的な規制環境、そして大口顧客との関係における透明性の不足が、外部からの疑義と株価急落を招いたと言えます。会社側の迅速で透明性の高いコミュニケーションこそが、現状を打破し、市場の信頼を取り戻すための最大の武器となるでしょう。
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